ですって

2023/2/14 [22:55:51] (火) 天気

タカシはゲラゲラ笑っていた。

「な、《ですって》ってつけるとすげーテキトーだろ」


マサルはなぜかほっとしていた。

タカシがモンハンをやめて部屋のテレビをつけていた。ディスプレイではNHKのニュースが続いていた。


「厚生労働省が、本人が健在であることを示す届け出を提出して年金を受け取っている高齢者を対象に調査を行ったところ、実際には322人が、すでに死亡しているか行方不明になっていたことが分かりました」《ですって》

「26日朝、北海道東部の釧路町にあるJR花咲線の踏切で、普通列車と軽乗用車が衝突しました。列車の乗客乗員にけがはありませんでしたが、軽乗用車を運転していた61歳の女性が意識不明の重体になっていて、警察が当時の詳しい状況を調べています」《ですって》


いつもはあまり表情を顔に出さないヨシアキもニヤニヤしながら画面を見ていた。

「強い冬型の気圧配置と上空の寒気の影響で、これから27日にかけて北日本の日本海側を中心に風や雪が強まり、吹雪となるおそれがあります。気象庁は、暴風や吹雪による交通への影響などに十分注意するよう呼びかけています」《ですって》


…ほんと、テキトーなんだ。マサルもクスっと顔が緩んでいた。

おかしなことや嫌なことはたくさんあるのに、それってテキトーなんだ。


マサルの通っていた小学校で自殺があった。体育館で校長先生が何か喋っていたけどよく覚えてない。級友たちがシクシク泣き出した。泣き声の輪が広がっていったのを覚えている。同級生ではなかったけど、マサルも心臓がばくばく音を立てていた。どうしていいのかわからなかった。

次の日もどんな顔をして登校すればいいのかわからず緊張していた。

学校に行ったマサルは驚いた。一昨日と同じ風景だったのだ。ふざけあって笑っている級友たち、いつもと変わらず授業が始まった。4年生だけが休みだったが、ほかは一昨日の続きだ。


4年2組のミヤケ君が亡くなりました。《ですって》


東日本大震災はマサルが中学一年の時だった。教室の窓ガラスがガタガタ鳴り悲鳴が上がった。先生の声もいつもより少し高くなっていた。揺れが収まり机から出て校庭に避難しても落ち着かない。誰もが不安そうにキョロキョロしていた。

家に帰ってついていたテレビを見てマサルは身体が熱くなった。津波が、海が押し寄せ町をかき混ぜている。大人たちが真剣に叫んでいた。怖いのにテレビから目が離せなかった。

マサルは熱を出して寝込んだ。

「地震すげーな」「津波こえーよ」「はい、61ページ開く」

テレビは行方不明者や死者の数を数え上げ、原子力発電所の事故が大変だと放送していた。

それもひと月ほどだった。


東日本を襲った巨大地震と津波による死者は六千人を超え今なお行方不明者の捜索に全力をあげています。《ですって》


テレビのニュースにゲラゲラ笑うタカシの部屋から帰ってマサルはそっと口に出していた。

「ですって」

クスっと笑って宿題のプリントを片付けた。


 ◆


何事にも動じることなく、法廷で常に優位に立つことのできる阿部勝弁護士を周りは放っておくはずがなかった。

テレビのコメンテーターとして舌鋒鋭い的確なコメントに主婦層を中心に厚い人気を博していた。

与党から請われて衆議院選に出馬したのも当然の成り行きだった。

次期総裁、総理大臣候補の若きホープとしてマスコミも飛びついた。


「すげーだろ。マサルだよ、マサル」

武藤隆史は地元の居酒屋のテレビに映る勝を指差して、常連たちに話していた。


阿部候補は、失われた二十年を取り戻す、いやニッポンを取り戻すと力強いメッセージを国民に発信しておられます。

《ですって》

マサルはクスっと笑った。

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