罵倒芸の傑作
キース・ピータースンという作家のハードボイルドが大好き。ご立派な箴言名言ではなく、罵倒啖呵に毎度毎度読み返す度に痺れる。
中でもキース・ピータースンがアンドリュー・クラヴァン名義で書いた『真夜中の死線』は傑作中の傑作(クリント・イーストウッドで映画化もされている「true crime」)
たとえばこのあたりがキース・ピータースンの真骨頂。罵倒芸の神髄。
「ビーチャムさん」わたしはしゃがれ声で言った「イエス・キリストのことには、鼠のくそほどの関心もない。あなたの気持ちにも興味はない。正しい裁きとやらが行われようと行われまいと、それがこの世でだろうとあの世でだろうと、そんなことにも興味はない。正直に言わせてもらえば、何が正しくて、何が間違っていようと、個人的にはたいして問題じゃないと思ってます。そんなことはどうでもいい」
わたしは吸いさしの煙草を床に投げ捨て、靴の踵で揉み消した。それに合わせて靴の爪先が右に左に動くのを眺めた。ビーチャムに向かってこんなことを言いだすとは、我ながら信じられなかった。だが、途中で止めることはできなかった。わたしは顔を起こし、改めて鉄格子の向こうに目を遣った。
「ビーチャムさん、こちらが知りたいのは――」と切り出した。「事の真相です。あの場で何が起こったのか、その実際のところ、事実が知りたい。そのためにここに来たんです。
なんだけど、当たり前の話、この言葉遣いは翻訳者を通してだ。冤罪で死刑執行を目前に、毎日神に祈って諦めかけている男に言う言葉じゃない。『真夜中の死線』の翻訳者は「芹澤 恵」。東京創元社のキース・ピータースンはほとんどこの方の翻訳。
元はどうなってんだろうと、原書の該当部分を確認してみた。
"Mr. Beachum," I said hoarsely. "I don't give a rat's ass about Jesus Christ.
And I don't care how you feel either. I don't care about justice, not in this life or in the next.
To be honest, I don't even care very much about what's right and wrong. I never have."
I dropped my cigarette to the floor.
I crushed it under my shoe, watching my shoe turn this way and that.
I could hardly believe what I was saying to him. And I couldn't stop. I raised my eyes again.
"All I care about, Mr. Beachum," I said, "are the things that happen.
The facts, the events. That's my job, that's my only job.
The things that happen. Mr. Beachum -- I have to know --
did you kill that woman or not ?"
ほぼ原文どおりだけど、「神さまだとか正義だとか、んなこた、どうでもいい、おれの知ったこっちゃねえんだ」的ニュアンスが滲み出てるのは翻訳の力技というか芹澤恵さんのセンスの光るところ、だと思う(わたしは英語はよくわからない)
『幻の終わり』
おれは叫んだ、必死で叫んだよ、「レジー・ジャクソン!レジー・ジャクソン」ってな。するとその手がおれを捕まえた。おれのシャツの胸倉をつかんで、門のなかに引きずり込んでくれた。ウェルズ、そのとき見た海兵の顔は一生忘れないよ。真っ白くて真ん丸な中西部の男の顔だった。そいつのピンク色のほっぺたを涙が伝ってた。
そしてそいつが言ったんだ「馬鹿野郎、ピート・ローズがいるだろうが。あのピート・くそ・ローズが」ってな」
翻訳モノの雰囲気というのがあるとしたらこういうところかな。
キース・ピータースン著 芹澤恵訳はどれもこれも。ハズレはない。
東京創元社 アンドリュー・クラヴァン『真夜中の死線』
https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488267056
東京創元社 キース・ピータースン作品一覧
https://www.tsogen.co.jp/np/author/628
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